夢語り





夢語り

短編と呼ぶにも短すぎるような作品を集めてみました。
それでは様々な夢の世界を御覧下さい。

第1夜
第2夜
第3夜



1.夢の男


つまらん話だよ?
聞いたところで何にもなりゃしない。
それでも良い?聞きたいって?
つまらん話なんだがね・・・


ここに一人の男がいる。
この男、馬鹿ではないが、賢い訳でもない普通の男だ。
別にこれと言って良い面構えでもないが、身体は丈夫でよく働く。一人身なもんだから、次第に生活は潤った。
ある時この男、夢を見た。
それがとっても可笑しな夢だ。
それはよく語られるような、この男の人生をそっくり変えてしまうような夢ではなかったが、それなりには得る所もある夢だった。
まぁ、愚直な男であったから、それはそれとして堅実に生活をして、まあまあマシな人生をそこそこ幸せに生きて、そして死んだ。
たいして学があった男じゃなかった。なにぶん昔の事だ、読み書きがそこそこ出来るだけだった。そんな男が一っつだけ、書き置いていたモンがあった。
それが、例の夢よ。
その夢はおよそ一晩で見たとは思えんほどの長さで、それはそれは語り尽せぬほどに面白い話だったという。今では断片さえも残っちゃいないがな。
次代の常で親よりはちぃーっとばかし良い勉強させてもらってた息子たちはそれにハマった。
なあんで親父はこれを世に出さなかったのか、不思議でしょうがなかった。
けども、読み進んでくうちに段々空恐ろしくなってった。
終わらないんだ、その話は。
いつまでたっても終わらない。
そして、何となく気付き始めた。
父親がその夢を誰にも話さなかった訳を、その夢の正体に。
そうすると、息子たちはその夢をもとあったようにしまい込むと、父親と同じように堅実に生きて死んだ。

別な話では朝日に溶けて消えたとも言われているがね。


それで、終わりだ。落ちも何にもない、それがこの話の全貌さ。

その夢の正体ってのは何だって・・・?
それは世界そのものだと言われている。
男が夢を見たんじゃなくて夢の中の男が世界を夢に見たのさ。
だから、夢を封じて堅実に生きた。
この人生が譬え誰かの見てる夢でも、その中に生きてる自分にとっちゃ大事な人生だったって事だよ。夢の主の目覚めによって朝日とともに消える運命だとしても、どう生きたかが重要だって事を自分で知っていたのさ。その男はね。
ただ、それだけの話さ。



2.塔守 −人形師・2−


 ここから、7つの山と7つの湖(うみ)とを越えた向こうに、7つの国が造られる前から其処に在り、7つの国が滅びた後も立ち続けている天にも届く高いゝ塔がある。

其処では一切風が吹かず、雨も降らず、雲もなかったが、塔の周りには水も緑も溢れていた。訪れる人も無く、また出ていく者もないその地には、ただ一人の老いた塔守が娘と二人だけで住んでいた。

その塔は、世界でただ1つだけの大切な塔。はるか彼方の山脈よりもその天を突く姿は見ることが出来、夜の暗闇の中で淡く光るその姿は人々の畏敬の念を集めていた。

其処は人々の魂の集う場所。
各国の王であろうと、聖職者であろうとも、何人たりとも侵す事は出来ない。
誰にとっても平等に不可侵の聖なる地・・・。

其処を訪れる事が出来るのは塔守が死んだ時のみ。その時だけ、ただ一人の人間がその地に踏み入る事が許される。
その者こそ次代の塔守。
その男を迎え入れるは塔守の娘。
そして彼の地は閉ざされる。

いつの日か、塔守の娘が新たなる塔守を迎えるために再び扉を開く、その時まで。



    
3.天地創造、或いは宗教に於ける寓話


世界の果てで神々について争う者たちがいた。

ある者は云う、
「神は六日六晩をかけて世界をお造りになり7日めにお休みになられた」と。
またある者は云う、
「混沌より大地と闇が生まれ、大地は天空を生み、大地は闇との間に光を生み、天空との間に神々を生んだ。そうして世界は形作られた」と。
また別の者はこう云った、
「ミルクから神々が生まれ、神々はミルクから大地を引き上げられた。そうして世界は形を成した」と。
そうして他の者は云う、
「神々の王が海の女神を引き裂き、その体を大地をとし、腕より天を作り、臓物から作物と獣と人を作った」と。
更にある者がまた云った、
「混沌より始めの神々が生まれたが、やがてお隠れになった。最後に生まれた二柱の神は始めの神々に託された矛により世界を大地と海とに分けた。そうして残りの島々と神々を生んだ」と。

彼らの言葉を聞いた者は言った。
「おぉ、世界にはなんと神々の多き事か」と。
その者はやがて去っていった。
「私は私の神を信じる。
 貴方は貴方の神を信じればいい」と。

だが、その言葉を聴く者はいなかった。
今も世界の果てで、果てのない論争は続いているという。




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