Lost World





Lost World


プロローグ
第1章
第2章




プロローグ


 ―――私は確かに20世紀末の日本にいたはずだった・・・。


 ノストラダスの予言は的中せず、当初あんなにも騒がれていた2000年問題もほんの僅かなトラブルが発生しただけで、特に大きな問題も無く2001年を迎えようとしていた・・・。
だから、何の心配も無く信じきていたんだ。このまま明日が続いていくのだと、さしたる問題も無く少々面白みにはかけるけれど安穏とした日々がこの先も続くのだと、今から考えればそれは確たる根拠もなかったのだけれど、そう無邪気に信じきっていた。

   その筈だったのに――――



第1章


 「君は選ばれた」
不明瞭な微睡みの中で、私は何者かの声を聞いた。
「とてもつらい事だ・・・だが、君はすでに選ばれてしまった。」
その言葉は耳に届いていたけれど、私の中で理解される事は無かったが、それはひどく悲しげな声だった。
「どうか、嘆かず、立ち向かってほしい。とても、勇気がいる事だろうけれど・・・私は、君が強く、生きてくれる事を望む」
そう言って、“それ”は幕を張った様に不明瞭でヤケに眩しい視界の中から消え去った。私には、何を話しているのかさっぱり、分からなかった。


 そして私の意識は再び暗闇へと還る。



 気付いたときには、広いのか狭いのかよく分からない、私が寝ていたベッド以外何も、そう、ドアを除けば窓さえも無い、まるでB級の古いSF映画に出てきそうな真っ白な部屋にただ一人。昨日――どのくらい寝ていたのか分からないから、私の感覚でいう昨日(つまりは眠りにつく前だ)でしかないけれど――までは、確かに私は学校へ行きに通い、家族のいる家へ帰ってきたはずなのに。ここは、今まで見た事も無い場所で、何も状況が把握できていないというのは、ひどく不安に駆られる・・・。意味の無い考えに頭を占拠されてしまう。自分は死んだのだろうかとか、5感が非常にリアルな夢なのだろうか、というようなはっきり言って考えるまでも無い事ばかり。死後の世界にしては味気なかったし、第一私は死後の世界だなんてモノは信じていない。死んだらただの肉塊になる。それで終わりだ。これが夢だったとしても、どうせすぐ忘れしまうような事考えるなんて。


「S5789f、移動だ」
「?S・・ご・・・?」
目覚めてから、何時間たったのか分からないけれど(なにせ、時計も何も無い)別の男がやって来るまでにそう時間は経っていなかったと思う。この男はなんだか人形のような感じがした。そして、高圧的でもあった。
「お前の事だ。S5789f」
「・・・私には、名前があるわ。そんな番号で呼ばないで。実験動物みたいに・・・」
自分が人形だからって人までモノ扱いしないで欲しい。
「名前・・・?お前に?」
だけど私の言葉は能面の男に衝撃を与えたらしい。能面のような顔に、表情がうまれる。なぜだか、ひどく驚いた様子だ。
「そう。あったらいけない?貴方にだってあるでしょ?私に名前があることがおかしい?」
「・・・何と言う?」
少し、考えた風にして、また能面に戻った男が尋ねる。
「まゆみ。羽生(はせ)、繭(まゆ)深(み)」
「では、マユミ。付いて来い。」
そう言った声は、さっきよりは少しだけ、柔らかかった。




 もしかして、これはマトリックスのような状態かな?とも実はこの時、思ったりした。本当にくだらない考えだったと今では思う。誰しもヒーロー・ヒロインに憧れるけど、実際にその場になれば逃げたくなるだろう。闘うなんて事、知らないで生きてきたんだから。
 まぁ、現実には起こり得ない事だからこそ、憧れるのだけれど。
 事実、今回私の身に起きたこともまたよくある現実たり得ないSFとはまるで違うものだった。
 地球を壊して逃げ出して冷凍睡眠中だった訳でもなく、アブダクションされた訳でもない。記憶操作された人造人間でもないし、アンドロイドだと言う訳でもなかった。勿論、夢落ち、なんてのは論外。
 じゃぁ、何なのか、と思うかもしれない。それは正しく『事実は小説より奇なり』と言う諺にふさわしいものだった。




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