人形師






まえがき


一応小説なんぞを書こうかと思い立ち、挙句失敗したものです。
何を書いてるのか途中で自分でも分らなくなっていたりしています。
ので、最後まで読めた代物じゃないかとは思いますが読んでいただければ幸いです。




人形師



  T

昔むかしアル処ニ
一人の魔術師が住んでいました
彼には愛し合っている美しい妻と
一人の優秀な弟子がありました

彼の仕事は特別でした
その仕事は重要で
人々の生命の蝋燭の灯火を
高いたかい塔の中で
見守るというものです
この仕事は特別な上に大変です
なぜならば
人の命はあまりに脆く
しっかりと見ていなければ
ほんの少しの
溜息の様な風にでも
すぐに吹き消されてしまうからです
彼のずーっと前の魔術師は
塔の扉を閉め忘れた時がありました
その為に
沢山の人が疫病によって亡くなったのです

だから
彼は大切な人達の為にも
決してそんな事はすまいと
頑張っていたのです

しかし
どんなに頑張っていても
定めばかりは変えることは出来ません
彼がどんなに注意をしていても
人はその時が来れば
死んでしまうのです



ある日
彼の妻の命の灯が消えました
多くの人と同じように
彼の妻もまた
完全に燃え尽きる前に
灯は消えました

彼は七日七晩嘆き哀しみ
心配する弟子を顧みる事もなく
眠りもせず
食事も摂らずに
泣き続けました

そして彼は罪を犯しました

彼の妻の蝋燭が
完全に燃え尽きていたのならば
もしかしたら
それは防げたかもしれません
しかし
まだそれは残っていたのです


彼は弟子の蝋燭の灯を
妻の蝋燭に移すと
弟子の灯を消しました

妻は蘇りました
弟子の体の中に

ただ
ただ
涙流し続ける
物言わぬ人形として



  U

昔むかし或る処に
一人の錬金術師が住んでいました
彼には愛し合っている美しい妻と
一人の優秀な弟子がありました

或る時
彼の妻が死にました

彼はあまりの哀しみに
心が壊れてしまいました

彼は妻を黄泉返らせようと
あらゆる方法を試しました

しかし
冥府から魂を呼び戻すには
代償が必要です
それは人の命です
一人の人間を
蘇らせるには
術者の命が要るのです

そして良い方法を思いつきました

彼は妻のための器を丹念に創りあげると
弟子を操り
術を行わせたのです

妻は蘇りました
物言わぬ人形として

彼は喜び
依然同様彼女を愛しました
彼女さえいれば
他はどうでも良かったのです

やがて
彼も死にました

動く者が
誰もいなくなった部屋の中で
彼女は
ただ一筋
涙を流しました




  V

微睡(まどろみ)から目醒めると
夫がいた
自分の姿を見て
彼が
何をしたのかを知った
涙があふれ
止まらなかった

ルト
彼がそう名前を呼ぶ度に
身体が泣いた
それはこの身体(自分)の名ではないと
その度に
心も泣いた
彼が犯した私の為の
罪を思い知って

夫が死んだ
罪を負ったまま
私は決して老いぬまま
時の止まった体の中で

夫の灯は燃え尽きていた
芯も残さず
もう二度と生まれまい
同じ魂では
それこそが理を歪めた報い

私の蝋燭は燃えていながら
燃えていなかった
もう一度くらいなら
きっとまた
同じ魂で生まれるだろう



イナ
あなたに返そう
この身体を

夫がかつてやった
全く反対の事をする

灯を消すと
静かに私の意識は薄れていった

暫しの休息
再び命得る時までの

また
微睡の中へ
おちていく


  W

ねぇ
あなた
死んでから愛してくれても
遅いのよ

もっと早く
こうしてくれていれば
私だって
死のうだなんて
思わなかったのに

貴方にとって
私はいるだけで
良かったのね

必要とされてないと
ずっと
思っていたのよ

早く
言ってくれれば
良かったのに

貴方は
いつも私に優秀な弟子としている事しか
要求してはくれなかったんだもの
いつまで経っても
妻として見てはくれなかった

だから
事故(あの)の時
もう死んでも良いかなって
思ったの



でも
貴方が
あんまり哀しむから
戻って来てあげたのよ

人形ならば
命の代償なんて要らないもの

あぁ
私ももう少し
素直になっていれば
良かったのかもしれないわね

今は
何一つ言えない人形だけど
確かに私も
貴方を
愛していたわ

もう一度
生まれ変わっても
またきっと
出会いましょうね

人形に入っても
気付いてくれたんですもの
きっと
貴方なら
どんな私でも
気付いてくれるって
期待してるわ




あとがきという名の言い訳

小説じみたものを書こうと思って書いたはずが良く分からないものになったものです。
書いたのは2003年1月末。
確か試験期間中、自棄を起こして書いたような気が・・・。
これを読んでいるという事は最後まで読んでくださったという事でしょうか?
もしそうなら非常に嬉しい限りです。
出来れば感想など書いて頂ければに更に喜びます。
実はこれ、1・3、2・4で対になっています。
私の技術の未熟さゆえきっとここで書かなければ気付いてもらえなかったでしょうが。
共に妻に先立たれた二人の力ある魔術士のお話です。
そして後半はその妻達の視点から書いています。
もう少し分りやすいものが書ける様精進したいと思います。
それでは、ありがとうございました。




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