楽園の夢






楽園の夢

一応、ファンタジーだと思います……。
多分……。


プロローグ 玻璃の宮殿
第1章 アリューシャ
第2章 ハダナ
第3章 イルへ




玻璃の宮殿


それは、遥か彼方に忘れ去られた物語。
失われた王国の忘れられた伝説。



琉璃の宮殿は常春の国。
穏やかな日差しの永遠の若さの国。
美しい花々が咲き乱れ、鳥達は歌い、獣達も水辺に寝そべる。
人々は老いず、高らかに春を謳う。

そこは失われた楽園。
誰もが幸せに暮らし、望むものには永遠を与えるという。



今はもう、伽の話となってしまった。
失われた伝説の王国。

「ねぇ、母さま。その宮殿はもう無いの?」
幼子は母の膝で問いかける。
「いいえ、この世界のどこかには今もあるそうよ。一説には世界の果てにあるとも言われているわ。」
答える母の目は少しだけ寂しげに伏せられ、見えるはずの無い部屋の壁の向こう、何処か遠くを見ているようだった。
「さぁ、もう眠りなさい。明日もまた、早いのだから。」
けれど、優しげに見つめる母の眼差しはすで見いつものそれと変わらなかった。
寝台から離れようとする母親の裾をつかみ、少女は言った。
「いつか、その宮殿へ行ってみたい。そして王さまに会うの。私にも探せるかしら?」
幼くともその目は真摯な光を宿す。

それは、誰もが抱いた夢。

「そう、ね。ずっと、その願いを忘れなければ。きっと、いつか見つけられるわ。」

そして、誰もが時と共に忘れてしまった……。

母の微笑みに満面の笑みでこたえ、少女はそっと手を離した。
「じゃぁ、忘れない。きっと、見つけてみせるわ。その時は母さまも一緒よ。」
小さな娘の心はまだ期待と喜びと希望と言う光を抱いていた。
「そうなるといいわね。それじゃあ、お休みなさい。」

そう、誰もが忘れた夢を追ったその父のように。

「お休みなさい。母さま。」
「お休みなさい、アリューシャ。」

静かに閉ざされた扉の中、柔らかな月光に照らされて少女は夢を見る。

それは喪われた王国の夢。

彼の地へと立つ、己と母と、そして未だ知らぬ父の姿。



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